121.こんな「仕事術」があるんですね【<されど駄菓子> (2)商品開発?】

白や黄色の小粒なラムネがざざっと製造ラインの最終工程に流れてきた。名古屋市西区にある安部製菓の工場はイチゴのような甘い香りに包まれる。三代目社長の安部彰二さん(60)はラムネを手に取り、形や色合いに異常がないか見極めながら、新たな商品開発の可能性に思いを巡らした。

 父で先代社長の正男さん(96)は一九六七(昭和四十二)年、原料に砂糖を使うのが主流だったラムネ菓子を初めてブドウ糖で作った。ブドウ糖は水に溶けると熱を奪い、なめるとひんやりする。ラムネに最適だが固め具合が難しい。原料メーカーから「無理だ」と言われながらも約五年かけて研究し、ざらつきがなく、舌に乗せるとすっと溶ける逸品を生み出した。

 安部さんは先代のDNAを受け継ぎ、経営者であると同時に商品開発の先頭に立つ。「今あるものじゃないものを作れたら、一番になれる」

 開発の取っ掛かりの一つが口溶けの良いラムネ。二〇一一年に発売した熱中症対策の「真夏の塩タブレット」は、塩あめ、塩キャラメルより早く溶けて糖や塩分をすぐに補給できる。熱がこもる調理場で働く人やスポーツ選手に人気だ。

 飲酒対策にウコンを配合したタブレットや子ども向けに「カルシウムたっぷり ビタミンC入り 七大アレルゲン原料不使用」とうたうラムネも登場させた。カゴメ(名古屋市)の野菜ジュース「野菜生活」を10%混ぜたラムネも開発。消費者の健康志向へのシフトという時流の変化をつかみ、素早く対応している。

 失敗も重ねてきた。鼻づまり解消効果を狙ってミントやハーブを配合し、二十五年ほど前に開発した「のどラムネ」。数千ケースが返品され、三階建ての倉庫がいっぱいになった。当時はミントタブレットになじみが少なかったようだ。「かむだけでかみ合わせを矯正する」子ども向けキャラメルも振るわなかった。大阪の歯科医師と共同開発して世に出したが、主原料が砂糖のため、虫歯を気にする親の不評を買った。

 「百やって一個か二個、成功すればいい」。定番のラムネ商品が売り上げの約三割を安定して稼ぐ一方、安部さんはそれには飽き足らずアイデア勝負に打って出る。安部製菓の挑戦と技術革新(イノベーション)の歴史を、少し誇らしげに「アベノベーション」と呼んでいる。

 もちろん積極的な商品開発も過剰になれば、経営をむしばみかねない。ヒット作が出ても生産拡大に走らず、身の丈に合った経営にこだわる。一昨年で百歳を迎えた会社は創業以来、無借金で黒字を続けている。「黒字のうちに新しいことに挑戦しないと、業績が悪化してからでは手遅れになる」

 開発は大胆に、経営は冷静に。駄菓子とともに生きる次の百年を見据える。

アールエイチ産業医事務所